第3話 真のゴッドハンドとの出会い

 

気まずい施術

 

 ゴワッゴワッゴワッゴワッ。ゴワッゴワッゴワッゴワッ。ゴワッゴワッゴワッゴワッ。

 うーむ、これは一体…。いよいよ施術チェアに横たわり、角質ケアが始まったのですがなにか妙な感じです。

 ゴワッゴワッゴワッゴワッ。

 目を閉じているために確認はできないのですが、大量のクリームが顔の上に載せられてそれを全体に伸ばしてからマッサージ的な動きが始まったようでした。クリームはあっという間にゴワゴワと重くなり、顔の上で重苦しくこねられている感じなのです。

 …これはちょっと。

 この手のサロンでいきなり大量クリーム攻撃とは予測不可能であった。いまどきはどこのサロンもアロマオイルを使ったりしてお洒落な感じなのに、これじゃまるで昔母が使っていたコールドクリームみたい。しかもこの量を一気に顔に載せてしまうとは…。

 ハッ!もしやこの方はつい失敗してクリームを載せ過ぎてしまったのでは!? そういえばさっきのあの硬い表情…とても緊張されていたような? このままこのゴワゴワ感が続き、そして終わってしまったら……。き、気まずい。せっかくのサロン体験の後にゴワゴワでしたね、としか言えないのは激辛い。


失敗どころか神業だった!

 

 う、うーうーうー。と、誠に勝手なことを考えながら内心もがき苦しみ始めたそのときでした。突然ゴワゴワのクリームが魔法のように滑らかな感触へとスーッと変化したのです! その滑らかなクリームは肌の上をまるで優雅な旋律を奏でる波のように動き出しました。それはそれは心地良い感触にしばしうっとり。 

 ゴッドハンドと言われるエステティシアンの方がいらっしゃいますが、こんなにも繊細で美しい動きを完璧にこなす手技は初めてでした。他のどんなサロンとも比較しようがないまさに特別なテクニックです。これは失敗どころかすごいものに出会ってしまったと確信しました。

 そしてふとあることに気づいたのです。先程のゴワゴワした感触から、この滑らかで柔らかい感触に変化するまでずっと感じていたのはひたすらクリームの動きだけで、それを行っているはずの施術者の手の印象がまったくないということに。

 えーー!? どういうこと? これってなにー? と心の中で叫び出したそのとき! 今度はフッと一瞬にして滑らかなクリームが消えてしまい、肌の上にはオイルと手の感触だけが残されたのです。

 あのゴワゴワと大量にあったはずのクリームは跡形もなく消えていました。


“自分で洗顔”に抵抗があったけど…

 

 こ、これは?と驚いているうちに手が止まり「終了致しましたので洗顔をお願いします」と声が聞こえました。

 うっとりとびっくりの中に埋没している私を女性スタッフが促し、洗面台の前に立たされました。

 エステティックサロンとは、横になったまますべてのケアをお姫様のように受けられるところと思い込んでいたので思わず「え? 立つのですか?」「自分で?」と聞いてしまいました。

 「はい。そうです」という声が、まだまだ椅子でぐったりと寝ていたかったぐだぐだ心にぴしゃりと響きます。渋々洗面台の前に立ち、ため水で顔を流し、続いて洗顔。渋々洗顔料を手のひらで軽く伸ばし、円を描きながら素早く洗うように指導を受けてダブル洗顔をしました。

 この一連の流れを最初はうーん、しんどい、と思っていたのですが、実際に洗顔してみれば、なるほどこれは自分でするのがいちばん合理的だし、さっぱりと気持ちが良いものだと納得できました。


あっさり終了

 

 もう一度施術チェアに座ると、今度は女性スタッフが化粧水や乳液を手のひらで軽く叩き込むようにして仕上げてくれました。こうするときれいになった毛穴から肌の奥へと化粧水が入って肌を引き締めてくれるそうです。

「終了しましたのでメイクをこちらでどうぞ」。

 鏡の前に座ってからまわりを見回しましたが、さっきマッサージしてくれたはずの男性の姿はもう見当たらず、やけにあっさりとした雰囲気です。

 あの繊細で優雅でさえあったマッサージは本当にあの男性がしてくれたものだったのだろうか…男性の手があんなにも軽く柔らかく優しいケアをするなんて心底びっくり…などとぼんやりと考えつつも、とにかくメイクしましょ、と、鏡を見てあれ? と止まってしまいました。

 毎日見ている顔なのに何かが違っていたのです。